2005年3月
    特 別 提 言


   シュワルツェネガーの薬物使用発言について


                   社団法人日本ボディビル連盟
                     会 長  玉  利    齊

 去る2月27日の夕方、NHKの1チャンネルが大リーガーのドーピング汚染について報道していたのを見た人も居ることと思うが、野球界の汚染もさることながら、我々ボディビル界に関係を持つ人間にとってショッキングだったのはシュワルツェネガー・カリフォルニア州知事がインタビューに答えた発言の内容だった。
 「貴方はボディビルの世界チャンピオンだった時、薬物を使用しましたか」と云う質問に臆することなく「使用していました」と使用を認め、さらに「薬物を使用していたことに後悔していませんか」との問いかけに対して平然と「全く後悔しておりません」と言い放ったことである。
 遡って、彼が現役として活躍していた1960年代から70年代にかけては、漸くドーピングの存在がスポーツ界で問題になり始めた頃で、IOCも1968年のメキシコオリンピックで初めてドーピングテストを実施している。
 したがって、ボディビル競技では、薬物使用を禁ずるルールはIFBBでまだ制定されていなかったことは間違いない事実である。
 TVの放映がシュワルツェネガー知事の「後悔しておりません」と云うところで打ち切られているので、その後に続く彼の発言が有ったのか無かったのか定かでない。
 私の推定では恐らく彼は「当時のルールで禁じられていなかったので自分は最新の筋肉増強システムとして取り入れたのでアンフェアーな意識は全くなかった。 だから後悔はない」と云う様な意味の発言があったのではないだろうか。
 映画の撮影で何かを強調するためにある部分だけをアップにして写す手法があることは知られているがシュワルツェネガー発言をよりセンセーショナルにする為に誇張した編集結果の放映と思いたい。
 さもないと、ボディビル界のスーパースターが銀幕のヒーローとして成功し、圧倒的な大衆の支持のもと現在はカルフォルニア州知事として活躍し、さらには同じく俳優だつたレーガン元大統領にならって大統領への挑戦も射程に入れていると云われる程の力量を持つ彼がそんな言葉足らずの発言で大衆の夢をぶち壊す様なことをするとは信じられない。
 政治家であるならば、自分の個人的領域の問題に限定せず「スポーツはフェアでなければならない。ルールを破るアンフェアなドーピングは許すべきでない。 また、それは未来のアメリカを背負う青少年の心を傷つけるだけでなく、体もむしばむからだ」と社会的な見地からコメントするのがリーダーとしての責務である。
 万が一、放映どおり「後悔していない」だけの発言で終わっているとしたらスクリーンの中でのバーチャルなヒーローと現実社会での行動の倫理感が混同していると思われても仕方ない。