2002年10月22日


    第14回アジア競技大会2002釜山

    
「希望と跳躍、新しいボデイビルを目指して」
 
  

                        社団法人日本ボディビル連盟
会 長  玉 利   齊

 『希望と跳躍、新しいアジア』を大会理念として開催された釜山アジア競技大会は、史上最大の規模を誇り、OCA加盟国は42ヵ国、選手・役員1万1千余名、競技種目は38種目に及ぶものであった。
  既にオリンピック、ワールドカップをこなして来た韓国は大変な意気込みの中にも十分な自信を持って大会の成功に取り組んでいることが見てとれた。
  9月29日に挙行された開会式は、想像を上回る壮大で華麗な演出で、まさに大会スローガンである『アジアをひとつに、釜山を世界に』を体現したものであった。
  やがて日本選手団が行進して来ると、隊列の3分の1位のところにボディビル選手団の勇姿が見えた。 聞こえるわけがない声を張り上げて叫ぶと、中尾監督以下全役員選手達も手を振っている。
  あれはスポーツではない。見せ物だ等云われて約半世紀、我々JBBF関係者は、ボディビルが立派なスポーツであることを立証する為に心血を注いで努力を続けてきた。
  今、JBBF関係者の眼前をボディビル選手団は陸上や水泳や柔道選手達と肩を並べて行進してゆく。 胸が熱くなる感動にまぶたもジーンと潤んでくる。
  「津田、廣田、合戸、谷野、田代、山岸、相川、井上の日本選手達よ、力の限り闘って呉れ」と祈る様な気持ちで手を振る。
  ボディビル競技は釜山市の南に位置する市民会館で開催された。 アジア競技大会への初参加であるだけに役員達も従来のアジア選手権と違い皆緊張した顔つきで動き回っている。 今回の大会で何よりABBFが力を入れたことは、アンチ・ドーピングである。 ボディビル競技の選手達は禁止薬物で筋肉を造成していると云う無理解な風評がスポーツ界で広くまかり通っている現実を徹底的に払拭するために出場が決定した各国の全選手に自国のオリンピック委員会を通してドーピングテストを実施し、IOC認定の検査機関が発行した陰性証明書を提出しなければ体重測定も実施せず、競技へ出場させないと云うものだった。 これだけ厳しく通達していても、中近東のある国の選手団は陰性証明書を持参せず出場を拒否された。
  また、6位以上の入賞者は全員ドーピングテストを実施することに決定していたが、90kg級で3位に入賞したレバノンの某選手はドーピングテストを拒否したので即日失格が決定した。
  JBBFとしては、どの国よりも早くドーピングテストを実施し、ボディビル界のクリーンを目指しているので、どんな厳しい検査も平気で、むしろ大歓迎であった。
  ドーピングと並んでABBFが厳しく対処したのが審査である。つまり、ボディビルがスポーツとして評価され、認知される為には、スポーツ競技として、どの様に公正・公平に勝敗が決定されるかと云うことがスポーツ界やスポーツジャーナリズムの大きな関心事であったわけである。
  ボディビル関係者なら誰もが知っている体の見方、つまり筋肉の発達状態、全身のバランス、表現能力、その為のプレジャッジのピックアップ方式、予選・決勝の順位チェック方式、さらには規定7ポーズとフリーポーズ等について、門外漢である第三者は全く無知である。
  これ等をよく理解させると共に、どうしても主観が入らざるを得ない審査を出来る限り客観的に公平に審査することが問題であった。
  ABBFもこの点を重視し、あらかじめアシア大会の審査員に選ばれた審査員達に対し「特定の選手を故意に有利にするとか、極端に偏った審査と見なされる者は直ちに審査員を解任する」と云う意味の伝書が通達されていた。 この様な背景のもとで起こったのが80kg級の審査で問題となった審判問題である。
  このことについては、別の審判問題の項で詳細に見解を述べたい。
  アジア競技大会に参加して、単一のスポーツ大会との違いは、何と云っても多くのスポーツ競技が同時に開催される規模の大きさと、それを取り巻く各国メディアの多さが独特な活力と緊迫感を生み出している。
  さらに、強く肌に感じられるのは、単一スポーツ大会に数倍するナショナリズムの昂揚である。 これ等が混然とした雰囲気の中で各国選手団はメダルを目指して、記録を競い勝敗を争うのであるから選手も役員も審判も多少の差はあってもナショナリズムの熱気に包まれるのは当然と云えるだろう。
  また、各国もメダルの獲得によって民族の誇りと国の活力を実現しようとする。
  しかし、スポーツは世界に200余の国が存在している現在、唯一共通のルールで交流出来る人類共通の文化である。
  勝つことも、記録を出すことも、メダルの多いことも素晴らしい。 しかし、それ以上に素晴らしいのは、世界の仲間と生命の歓喜をスポーツに託して共通のルールで力一杯闘志を燃やす。 終わった後には爽やかな友情と連帯感が生じる。
  宗教は人の心を結び付ける最も強い絆だ。 しかし、国により民族により異なる。スポーツは国を超え、民族を超え、宗教を超えて結ばれる。 この素晴らしい人類普遍の文化を理解した上で、ナショナリズムの血を沸かすことは大賛成だ。
  JBBFはその意味で、ボディビルがスポーツ文化として高まることを追求したい。
  勝てば良いと云う勝敗至上主義は過剰なナショナルズムを生じやすい。自分の国を愛するからこそ他国も尊重する。ルールを通してフェアに闘うスポーツマンシップは国境を越える国際的な信頼感に通じる。
  勝敗の結果についは、中尾監督、朝生コーチが詳しく説明してくれるので、私は今大会に全力を尽くして健闘した日本の8選手に心から感謝したい。 成績はそれぞれだが、勝敗は時の運、日本のボディビル選手として誇りを持って真の完成を目指して頂きたい。
  事実、アジアは勿論、世界のボディビル界がアンチ・ドーピングを徹底し始めたのは日本選手から今日まで、国際大会で一人も陽性の失格者を出さなかったことの暗黙の影響力と思って良い。 戦後の日本は経済的価値観のみ追求し、精神的な価値を追及することをなおざりにして来た感がある。
  古代ギリシャの名言「健全なる肉体に健全なる精神が宿る」こそ、数千年を経た現代でもなおみずみずしさを失わない。日本のボディビルこそ、それを具現化するスポーツ文化であると信じたい。
  尚、初参加にも関わらず、8名の選手、2名の役員を日本選手団に加えて頂いたJOCに心から感謝申し上げたい。 御礼方々報告に参上し、金メダルが取れなかったことと、審判問題でメディアを賑わせたことをお詫びしたところ逆に励まされ、それよりJOCの準加盟団体にボディビルを受入れる方向で検討するとの暖かい言葉を頂いた次第である。
  終わりに、私を助けて身を粉にして働いてくれた中尾監督、朝生コーチ、増渕総務に心から御礼申し上げたい。 こと志に反して、苦汁を飲んだ政枝審判も逆境に耐えてチームの和に貢献してくれたことに感謝を贈るものだ。
  最後に、JBBFの同志諸兄は勿論、全国のボディビル関係者の支援にも厚い感謝を捧げたい。
  冒頭に述べた釜山第14回アジア競技大会の理念を最後の字句を変えてJBBFの今後の方向としたい。
 
「希望と跳躍、新しいボディビルを目指して」